主題講演 コロナ対策と未病

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主題講演
コロナ対策と未病

主題講演を務めた黒岩知事は、自身の中医学(中国伝統医学)との出合いを振り返りつつ、「日頃から健康な状態に近づくよう努めること」=「未病改善」がコロナの時代にますます重要であると言葉に力を込めた。

余命宣告された父

黒岩 祐治 神奈川県知事
フジテレビ報道記者、ワシントン駐在、「FNNスーパータイム」、「報道2001」キャスターなどを務めた後、2009年に退社。11年4月から神奈川県知事、現在3期目。著書に『百歳時代—“未病”のすすめ—』『末期ガンと漢方〜東西医療の融合 父に起きた奇跡〜』など。

父が末期の肝臓がんで余命2カ月を宣告された時、絶望的な状況の中で、西洋医学にも通じた中医学の専門家に偶然出会いました。事情を話してご相談したところ、まず漢方の哲学である「治未病(ちみびょう)」という考え方を理解してほしいと言われました。病気になってから治すのではなく、「未病」の段階から治すのが大事なことだという意味です。また、「有胃気即生(ゆういきそくせい)」。食べる力があれば生きることができるという意味です。そして、蒸した長芋を食べるように勧められました。干した長芋を煎じて飲む「山薬」と同様の効能があり、食べる力を増すとのことでした。
父は「未病」どころか末期がんだったので困惑しましたが、とにかくやってみました。しばらく続けたところ、次第に父の食欲が回復し、あれもこれも食べたいというようになりました。そしてがんを克服して、2年半素晴らしい時間をいただき、最後はポックリ亡くなったのです。この体験は私にとって強烈でした。

神奈川県の「未病改善」

神奈川県知事になり、このように最後まで「いのち輝く」ということの大切さを伝えたいと考えた時に、「未病」という言葉が浮かびました。一般に、心身の状態は健康か病気かのどちらかに分かれていると考えがちですが、明確に分かれていないのが実態です。そこで、健康と病気の間のグラデーションの連続的変化を「未病」(「ME-BYO」)と言うことにしました。このグラデーションという概念は中国漢方にはなく我々独自の考え方です。
グラデーションのどこにいても少しでも健康な状態に近づけようとするのが「未病改善」で、「食」「運動」「社会参加」の三つの取り組みが柱となります。今、コロナ禍で「社会参加」が難しくなっていますが、社会とのつながりは非常に重要です。
また、神奈川県では、「未病の改善」と最先端医療・技術を融合しながら、「ヘルスケア・ニューフロンティア」という取り組みを推進し、健康長寿と産業創出の実現を目指しています。

「自分ごと化」「いのち輝く」

「未病」の考え方で一番大切なのは、自分の身体のことを自ら知って、食生活や運動に気を使うなど、「自分ごと化」して具体的なアクションにつなげていくことです。そのために「未病指標」も作りました。こうした「自分ごと化」は、コロナの時代にますます重要になっています。
父の闘病を機に「未病」という考え方を知り、進化させてきました。コロナの時代を迎え、究極のゴールである「いのち輝く」をさらに目指してまいります。

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